社会保障
社会保障の概念と範囲
- 社会保障とは、私たちが「生きていくため」に必要不可欠なもの
- では、「生きていくため」にはどうやって?
- 水、食料、衣服、住居、また病気の時は医療が必要
- その他、インフラや教育など、たくさんの必要なものがある
- それらを自分一人では用意できない → 人同士の支え合いが必要
- 上記で挙げた必要なものを手に入れるには?
- → お金が必要
生活が成り立たなくなる時はどんなとき?
イギリスの貧困研究者「シーボーム・ラウントリー」さんの貧困サイクルとは
子供が生まれた時の貧困サイクル
- 出産する
- 働けない
- 教育費がかかる → 収入は減るのに、支出は増える
老後の貧困サイクル
- 退職
- 働けない → 収入がなく、支出のみ
働いてお金を得るという原則が成り立たなくなり、貧困に陥る
ワーキングプア
ワーキングプアとは
- 働いてるけども十分な収入がない時
- 近年では派遣労働やパート、アルバイトなどが問題となっている。
- 品行で貧しい生活を生活を強いられてる人のこと
- または、実際に働けなくなって無収入になり、生活が成り立たないこと
実際に働けない状況とは
- 高齢や障害、病気、介護または不況、リストラ、失業、中にはいろいろな差別により仕事がない
- このような場合は、個人では対応ができない
- そこでどう対応するかが、社会保障
社会保障の概念
- 「Social Security」 の訳
- 「Social」 : 「社会」の意味。社会的な生活問題や、社会的に対応すべきこと
- 「Security」 : 「安心、安全」
- 生活困窮といった社会問題に対応する制度・政策のことを「社会保障」という
- 社会保障の意味は時代と共に移り変わっている
- 日本でも戦前戦後では一部の人のための貧困問題対策として捉えられていた
- 現在では年金や医療など、国民全てが恩恵を受けている
- その意味では社会保障の考え方や概念は変遷をするものといえる
- 日本での大きな転換点は、第二次世界大戦
日本の社会保障の概念の転換
- 日本での大きな転換点は、第二次世界大戦
- その後にできた日本国憲法も、大きな転換のひとつ
- 日本国憲法は1946年11月3日に公布され、1947年5月3日に執行された
- 憲法第25条 第2項「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」
- しかし、戦後の混乱期の日本では戦前にきちんと社会保障をしてこなかった
- そのため、戦後どのように憲法を実行したらいいのか、というのが大きな課題となった
- そこで、当時の内閣は社会保障制度審議会を設置
- 社会保障の考え方やその後の展開の仕方についての検討を行った
- その成果が1950年「社会保障制度に関する勧告」(50年勧告)に結実する
- この中に社会保障制度の定義が書かれている
社会保障の定義
「社会保障制度とは、疾病、負傷、分娩、廃疾、死亡、老齢、失業、多子その他困窮の原因に対し、保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講じ、生活困窮に陥った者に対しては、国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに、公衆衛生及び社会福祉の向上を図り、もってすべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにするということをいうのである」
解説
- 生活困窮の原因 → 「疾病、負傷、分娩、廃疾、死亡、老齢、失業、多子その他」
- この当時、「多子(子沢山)」は貧困の原因だった
- このような貧困の原因に対して社会保障の対応は「保険的方法」と書かれてる
- これは社会保険のことを指し、年金や医療などが代表的な制度 直接の公の負担 生活困窮に陥った者に対しては、国家扶助によって最低限度の生活を保障
- → 国家扶助とは今でいう公的扶助
- →例えば生活保護
- ここでも、生活保護が最低限度の生活を保障するためにあると書かれてると理解しても良い *「公衆衛生および社会福祉の向上を図り」 とあり、公衆衛生は以上に重要な医療制度として位置づいている
- 社会福祉は高齢者福祉サービスや障害者福祉サービス、保育などもこの分野が当てはまる。
社会保障の目的
「もってすべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにする」
つまり、人間らしい生活、日本人社会の中でも文化的な生活が保障されるようにしなければならないという高い理念を謳っている。
社会保障の考え方と定義、社会保障の概念と範囲
社会保障制度審議会の勧告
「社会保障の中心をなすものは自らをしてそれに必要な経費を醵出せしめるところの社会保険制度でなければならない」 生活保護制度などは、社会保険で対応できなかった場合の対処、補完的。
社会保障の考え方
定義 : 競技と広義、また社会保障に関連する諸制度
- 社会保険中心の社会保障制度の構築
- それを踏まえて、生活保護制度などは、社会保険で対応できなかった場合の補完的な位置付け
社会保障制度審議会の勧告
の社会保障の考え方は、狭義と広義、また社会保障に関する諸制度という分類がある
社会保障の狭義
社会保険 | 医療保険 年金保険 介護保険 雇用保険 労災保険 | 社会福祉 | 障害者福祉老人福祉 児童福祉 母子福祉 |
---|---|
公的扶助 | 生活保護 |
公衆衛生 | 障害者福祉 老人福祉 児童福祉 母子福祉 |
老人福祉 | 後期高齢者医療制度 |
社会保険制度
- 社会保障の中でも中核、必要不可欠な制度。
- 加入者の負担による保険制度
- 保険給付に必要な資金を制度加入者の拠出によって準備
- 様々保険事故が発生したら一定の保険給付を行う
- 制度加入者やその家族の生活の安定を測る保険制度
- 「医療保険」「年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」で構成される
- サラリーマンは自分の給料から保険料が差し引かれている
公的扶助
- 国民全体を対象
- 生活保護
公衆衛生
- 社会福祉は、障害者福祉、老人福祉、児童福祉、母子福祉、災害救助など
- 公衆衛生及び医療は、社会保険の医療ではなく、基本的な医療制度のことを指す
- 例えば、結核対策や保健所、また上下水道、廃棄物処理など
- 上下水道や廃棄物処理は、現在は社会保障として定義されることは少ない
- しかし、これが前提になってることを堰堤に我々の生活が成り立ってる
広義の社会保障
- 恩給制度
- 近年では稀だが、元軍人の方などへは税金で恩給という、年金のようなものが支給されている
- 戦争犠牲者援護(原爆医療の制度)
- たとえば広島や長崎に落とされた原爆の被害医療の制度があり、公費で対応されている
- 戦没者遺族年金
- 戦傷病者医療制度
- 住宅対策(主に公営住宅)
- 雇用対策・失業対策
ヨーロッパでは住宅や雇用は社会保障の重要な役割と位置付けられてる
- 日本では位置付けられてないが、教育についてもヨーロッパでは非常に重要な社会保障制度として考えられている
- さらに近年では、公共機関や建物のバリアフリーなど、都市計画などについても社会保障の重要な課題となってきてる
1993年 社会保障制度審議会 「社会保障将来像委員会一時報告」
- 社会保障は、国民の生活の安定が損なわれた場合に、国民に健やかで安心できる生活を保障する制度
- 社会保障は給付を行うことによって国民の生活を保障する制度
社会保障は、国や地方公共団体の責任として生活保障を行う制度 その結果、社会保障の定義は以下となる
国民の生活の安定が損なわれた場合に、国民にすこやかで安心できる生活を保障することを目的として、公的責任で生活を支える給付を行うもの」
- 1つ目と2つ目は、例えば年金は現金給付ですし、医療は現物支給、たとえば介護保険ではサービスの提供、といった給付に当たる
- このように給付することが社会保障の位置付けている
- 3つ目は、つまり民間のチャリティやボランティアそのものでは、(つまり民間の責任において行わられるものは)社会保障とはいわないということ
社会保障の概念の時代の移り変わり
時代 | 問題・課題 | 社会保障 |
---|---|---|
戦前 | 労働問題 貧困問題 | 労働者の医療 年金と貧困対策 |
戦後 〜 現在 | 高齢者・障害者・児童等の社会福祉・医療制度 介護問題 少子化対策 格差社会 | 社会が変わるのに合わせて社会保障の範囲や考え方も変わる |
- 社会保障の範囲は時代とともに移り変わっている
- 基本的には広がってくる
- 最初は戦前では労働問題(貧困労働者の問題)、貧困問題が大きな課題
- 戦後は高齢者、障害者、児童等の社会福祉や医療制度等の充実が大きな焦点
- 近年では少子高齢化ということで、介護問題や少子化問題が非常に大きな問題として取り上げられた
- ただしここ数年では格差社会という問題があり、再び労働の問題と貧困の問題が新聞やマスメディアなどを通して大きな問題として取り上げられてる
今後の社会保障の概念と範囲
- 国としては多額の借金を抱えている
- 社会保障は国家財政を非常に大きく圧迫している
- 一方で、少子化対策や高齢化対策を求められてる
- そのため、年金や医療、保育の拡充が求められてる
- しかしこれらの給付を支えるための税金や保険料を払う人は、少子化のため少なくなってきている
- そうなると社会保障は確証せざるを得ないが、上記のように少子高齢化というのは社会保障が求められていく社会になっている
- つまり、簡単に縮小もできない
- そこで政府では近年では、保険料を払った人だけを守っていこうとする社会保険制度中心の考え方に突き進んでいる
- それに伴って、社会福祉の考え方も、近年では福祉サービスもお金を払わなければならないという考え方が定着してきている
- そうすることで、営利企業も参入していいという考え方に徐々に変わってきている。
- 実際に社会福祉の分野では、設置制度といって行政が一方的にサービスを提供するとされていたものから、利用者とサービス提供者の自由な契約関係のもとでサービスを利用していくという考え方に変わってきている
- このように、社会保障の考え方の中身が質的に変わってきてることがうかがえる
社会保障の概念の見直し
- 高齢者、若者の貧困層が増加
- 生活保護を受ける半分は高齢者の世帯
- ワーキングプア ↓
- 福祉サービスを買えない、保険料が払えない ↓
社会保障の概念の見直しにも限界がある
一方で、高齢者や若者を中心に貧困層も増加してきている
- 特に高齢者は所得格差が非常に大きい世帯になっている
- 会社の社長さんになってバリバリの人もいれば、退職して年金も不十分は人は貧困に陥る
- 端的な例としては、生活保護世帯の半分は高齢者世帯となってることからも、それは分かる
- また近年では、若者も正規の仕事にありつけなくて、派遣労働やパート、アルバイトなど、ワーキングプアになってきてる人が非常に多い
- この方々は福祉サービスを買ったり、保険料を払ったりすることが非常に難しい
- そのため、先ほど述べたような、政府の考えている社会保障の概念の見直しも限界がある
- 今後、どのようにしてそれに対応していったら良いのか、ますます議論が必要な状況にある